フローチャートを使ったクリティカルパスを意識した仕事の進め方

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目次

はじめに

社会人となりまず始めに教わることと言えば、PDCAが真っ先に浮かぶのではないでしょうか。
このPDCAですが、内容を理解しているものの、「本当にうまく実践できているのだろうか?」と、時折ふと不安に思うようなことがあるかと思います。

その不安を解消するための手段として、フローチャートを活用し、仕事を進めていくことで、PDCAを機能させていく方法があります。
このフローチャートを活用した仕事の進め方は、PMBOK※1 で言うところの、「フローチャートを活用したクリティカルパスを意識した仕事の進め方」そのものであり、仕事の開始から終了までのプロセスをマネジメントしながら仕事を行っていきます。

このようなマネジメントは、管理職といったマネージャー層の人が取り組んでいる内容になりますが、一般的なエンジニアであっても、このような考え方を持ちながら日々与えられた仕事をこなしていくことで、大局を見据えた上で行動を起こすことができるようになり、より主体的にものごとに対し、取り組んでいけるようになります。そしてやがては、アウトプットすることに対し、「やりがい」や「生きがい」といったものに繋がっていくはずです。

今回はそんな背景もあることから、いつもの技術に特化した内容ではなく、仕事の進め方といったマネジメントに関する手法について、少しばかりご紹介していきたいと思います。

※1:PMBOK(Project Management Body of Knowledge)とは、プロジェクト管理に関するノウハウや手法を体系的にまとめたもの。通称:ピンボック

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目的

それでは本題に入っていきたいと思います。

若手エンジニアの仕事の1つに、設計計算書の作成をお願いされることがあると思います。
今回は、ある部品の「強度計算書の作成」を例に取り上げ、納期どおりに、いかにアウトプットしていくかを、開始から終了までのプロセス(仕事の流れ)を示す、「フローチャートの作成手順」について、考えていきたいと思います。
マネジメント系に不慣れな方や、アレルギー反応を起こしている方もいらっしゃるかと思いますので、可能な限り細かな手順に分割して進めていきたいと思います。

各手順に沿って進めていくことで、最終的には下図のようなフローチャートが作成できるようになります。

このフローチャートを元に仕事を進め、進捗管理を行い、必要により軌道修正することで、PDCAも自然に実行できるようになります。

ぜひ今回を機に、ものにしていただければと思います。

例題

題材なしで考えていくには、さすがに難しいと思いますので、下記のような例題を用意してみました。
この例題を元に、納期どおりに、いかにアウトプットしていくかを、開始から終了までのプロセス(仕事の流れ)を示す、「フローチャートの作成手順」について、考えていきたいと思います。

■例題

  • 上司から依頼された仕事:スナップフィットの強度確認
  • 上司へ提出しなければならないアウトプット:強度計算書
  • 納期:10日

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フローチャートの作成手順

下記が今回の例題に対する、開始から終了までのプロセスを示した、フローチャートの作成手順となります。
一度に多くのことを考えるのは大変なので、大きく6つの手順に分割して考えていきたいと思います。

  • 手順1:やることリストを作成し、頭の中を空っぽに
  • 手順2:やることリストに「担当者」を追加
  • 手順3:やることリストに「工数」を追加
  • 手順4:やることリストを元に「フローチャート」を作成
  • 手順5:フローチャートを元に「クリティカルパス」を見出す
  • 手順6:クリティカルパスを元に「対策」を見出す

以上で進めていきます。

手順1:やることリストの作成(TODOリストの作成)

まずは何をやるにもしても、箇条書きに「やること」を書き出していきましょう。
頭の中にやらないといけないことを、あれやこれやと漠然に溜め込むことは、精神衛生上とても悪いです。
手書きでノートに書き殴るもよし。PC上のエクセルに書き連ねるのもよし。
今回の依頼内容はスナップフィットの強度確認で、最終なアウトプットは強度計算書の提出となります。

やるべきことをリストアップしていくと下記のようになりました。
実際に自分が仕事を進めていく流れをイメージしながら書き出していくと、項目が浮かびやすいと思います。

■やることリスト

やること
強度計算式の準備(調査)
設計図面の入手
材料物性値の入手
強度計算書の作成
第3者チェック
計算書認可

以上で、やることリストが完成しました。
それでは次の作業を進めて行きましょう。

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手順2:やることリストへ「担当者」を追加

やることリストに担当者を追加していきましょう。
やること全てに対し、自分以外の担当者もいるはずです。

■やることリスト

やること担当者
強度計算式の準備(調査)自分
設計図面の入手工場:佐藤さん
材料物性値の入手メーカー:鈴木さん
強度計算書の作成自分
第3者チェック開発:高橋さん
計算書認可開発:田中さん

以上で、やることリストに担当者を追加することができました。

自分がやることは、たったの2項目だけです。
少しは重圧から開放されたのではないでしょうか。

手順3:やることリストへ「工数」を追加

やることと担当者を明確にできたので、ここへ工数を追加していきましょう。
各項目に対し、どのくらいの工数が必要になりそうかを、記入していきましょう。

■やることリスト

やること担当者工数
強度計算式の準備(調査)自分1日
設計図面の入手工場:佐藤さん3日(他部署なので気持ち時間が必要かな…)
材料物性値の入手メーカー:鈴木さん6日(社外なので余裕を見ておくか…)
強度計算書の作成自分2日
第3者チェック開発:高橋さん3日(他の仕事も見てるので余裕がいるよなぁ…)
計算書認可開発:田中さん3日(あまりデスクにいないので余裕見とくか…)

以上で、やることリストに工数を追加することができました。

ここで少し注目しておきたいポイントがあります。
それは、自分以外の人に、やることをお願いする場合、余裕をみた工数を確保しておく必要があるということです。
上司に「いつまでに完成できそう?」と問いかけられた際に、いつも納期を短めに答えてしまう人は、この部分の工数が考慮されていない場合が多く見受けられるため、注意が必要です。

ようやくフローチャートを描いていくための仕込みが完了しました。
ここまで、おつかれさまでした。

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手順4:やることリストを元に「フローチャート」を作成

ここからは、いよいよ今回のメインとなる「フローチャート」の作成となります。
武将ではなく軍師に心を切り替えて以降進めてください。

既に仕込んでおいた、やることリストを元に、仕事の流れをイメージしながら、各項目を順番に、開始から終了までを矢印で繋げていきます。
各項目は、直列だけでなく、並列に繋ぐことができる項目もありますので、フローが最短になるよう無駄が出ないように繋いでいく必要があります。

以上で、やることリストにある個々の項目が、仕事の進め方に沿った形で、開始から終了までの流れを生み出すことができました。

一般的によく言われる、点から線へと生まれ変わった瞬間です。
文字ばかりが書かれたやることリストを、フローチャートを使った絵に落とし込むことで、直感的に頭で理解しやすい形になったのではないでしょうか?

上司から依頼された際にモヤモヤとしていた仕事の進め方が、フローチャートに描き見える化したことで、とてもスッキリとした気分になったかと思います。

それでは次のミッションとなる納期10日に対し、このフローチャートを使って詳細を詰めていきましょう。

手順5:フローチャートを元に「クリティカルパス」を見出す

ここからは与えられた納期に対して、フローチャートを使いながら実現可否を判断していきます。

その見極めを行うために、開始から終了までの期間を決定づけている、フローチャート上にあるクリティカルパスを見出していく必要があります。

ここで、クリティカルパスといった言葉を知っておく必要があります。
下図が、先ほど作成したフローチャートに、クリティカルパスを記載した図になります。

フローチャートには、開始から終了に至るまでのルート(経路)が、左と右の計2つあります。

左側ルートの場合、開始から終了までの各工数を足し合わせていくと、計12日となります。
一方、右側ルートの場合は、開始から終了までの工数を同様に計算すると、計15日となります。

よって、この右側ルートが開始から終了までの期間が長く、納期を決定付けています。
左側ルートの工数をいくら頑張って短縮しても、右側ルートの工数を短縮しない限り、全体の納期を短縮することはできません。

上記のとおり、与えられた仕事に対し、開始から終了までの期間が最も長く、納期を決定付けている右側ルートのことを、PMBOK※1 で言うところの「クリティカルパス」と呼んでいます。

ゲームで言うところの、クリティカルヒットや会心の一撃と同じ意味合いで、仕事の開始から終了までの期間(=納期)に対し、致命的なダメージを与えている経路を表しています。

今回作成したフローチャートのクリティカルパスを見てみると、開始から終了まで計15日必要だということが分かりました。
これは、上司に依頼された納期10日に対し、5日オーバーしているということになります。
クリティカルパスを見出すことで、与えられた納期に対し、このままの進め方で問題があるのかといった判断ができるようになるのです。

また、もう一つの観点で見てみると、このままの進め方で問題がある場合、このクリティカルパスを攻略しない限り、上司から依頼された納期10日といったミッションをクリアできないということを表しています。
よって、ミッションを達成させるためには、このクリティカルパスを攻略していく必要があります。

それでは次の手順で、納期を達成させるべく対策を考えていきましょう。

手順6:クリティカルパスを元に「対策」を見出す

上司に依頼された納期10日に対し、フローチャートを元にクリティカルパスで得た納期は計15日。
現状では5日オーバーしているため、対策を行う必要があります。

対策にあたってのポイントは、繰り返しになりますが、クリティカルパス上にある各項目を、いかに短縮していくかにかかっています。
クリティカルパスになっていない項目をいくら短縮しても意味はありません。

ここでほんの一例ではありますが、下図にクリティカルパスとなっている右側ルートを短縮させるための案を青色で記載してみました。

対策3は、ダメ元の案として保険的な意味合いで記載しております。
特に納期に対しカウントしていませんが、もし交渉がうまく行けば、更なる納期の短縮が可能となります。
他にもクリティカルパスを短縮するための方法があるかと思います。
ぜひ一度みなさんでも考えてみてください。

以上で、今回与えられた依頼に対し、クリティカルパスを意識した、開始から終了までのプロセス(仕事の流れ)を示す、フローチャートの作成が完了しました。
ここまでくれば、上司からの依頼された仕事が、ほぼ完成したと言っても過言ではありません。
あとは目の前にある、やることだけに注力し、機械的に粛粛と潰し込んでいくだけとなります。
そして都度、進捗管理を行い、必要により軌道修正することで、PDCAが自然と機能するのです。

ここまで大変おつかれさまでした。

各手順におけるポイント

  • 目の前にある細かな項目を着手してしまう前に、全体像を見渡すことが大事
  • クリティカルパスのラインを見て、個々の項目に対する短縮案がないかを考える
  • クリティカルパスのラインを見て、並行して進めることのできる項目がないかを考える
  • 個々の項目を分割することで並行して進めることができないかを考える
  • 自分以外に他の人に切り出すことで短縮案がないかを考える
  • 権力者にプッシュしてもらうことで、個々の項目を短縮できないかを考える
  • 浅く広くの知見でも、項目出しや工数見積りを行う際の有用な情報源となる

期待できる効果

  • クリティカルパスを含むフローチャートは、報連相を行う上で有用なツールとなる
  • クリティカルパスに自分が実施する項目がある場合、早い球出しで全体計画の短縮に貢献可能
  • クリティカルパスに自分が実施する項目がない場合、クリティカルパスに入っている項目へ応援に入ることで、全体計画の短縮に貢献可能
  • 自らが考えたクリティカルパスを含んだフローチャートに対し、実績を加え必要により改善を加えていくことで、自然とPDCAが機能する
  • 全体を見渡すことで、小さな作業ベースの喜びから、プロジェクト全体を主体的に動かしているといった大きな喜びに変えることができる

最後に

若手エンジニアが中堅エンジニアへとステップアップしていく際、これまでの図面修正や評価業務といった単発的な仕事から、目的だけを告げられアウトプットを出していく、言わば丸投げされた仕事へと、徐々に変化していきます。
目的を達成させる手段は、特にこれといった雛形はなく、人それぞれのやり方や考え方があることから、丸投げされた当初は、何をどのように進めていけばよいのだろうかと、戸惑いの連続だと思います。

今回は、やることリストの作成から始め、フローチャートを使った流れに置き換え、常にクリティカルパスを意識しながら仕事を進めていくといった、マネジメントに観点をおいた一例を挙げてみました。

やることリストは、TODOリストとも呼ばれており、特にあれやこれやと先輩エンジニアからお願いされる機会が多い若手エンジニアは、やることリストの作成だけでも、まずは実践されることを強くお勧めします。

その理由は、言われたことを忘れてしまい信用を失うことを防ぐ目的もありますが、私はどちらかと言うと、頼まれたことを覚え続けるといった、脳への大きな負担を避けるために、ぜひ実践していただきたいと思っています。
やることが多く処理しきれなくなるにつれ、「あれはどうだっただろうか?」といったことが、違う仕事をしているのにも関わらず気になり始めるようになり、常に不安や心配ごとが頭から離れないといった、とても大きなストレスへと繋がっていくためです。

頭の中にあるモヤモヤを、やることリストに吐き出し、俗に言う「見える化」することで、記憶から記録に置き換わり、スッキリとした精神状態を保つことができるようになります。
そして、やることといった各項目を「点」とみなした場合、フローチャートによって流れを生み出すことで、「点から線」、「線から面」といったように、より全体を把握しやすいように見える化していくための手法が、今回ご紹介したフローチャートを活用したクリティカルパスを意識した仕事の進め方となります。

見える化することで本人自身もそうですが、第三者も容易に全体像を把握することが可能となります。
進捗確認のミーティングでも活用できますし、状況に応じて軌道修正していくことにより、自然とPDCAを機能させることもできます。

特に仕事がうまくいっていないときにおいて、個人ではなくチーム全体で羅針盤としても有用に活用できるため、今回の一例をきっかけに、個人で見える化することによって生み出される大きな成果や喜びを、成功体験を通じて一日でも早く掴んでいただければと思います。

そしてこのような見える化は、なによりも自分自身の強い味方になってくれるはずです。

関連書籍

以上

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