【製品設計のいろは】コネクタ接点:ワイピング効果と原理について

【製品設計のいろは】コネクタ接点:ワイピング効果と原理について コネクタ

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はじめに

物理的に2つに分かれている製品を電気的に接続しようとすると、様々な形態がありますが、必ずコネクタを介して接続することとなります。自動車のEV化に伴い、自動車を構成する電子部品の比率が、直近10年を見ても約2倍に増加しており、コネクタの存在感が一段と増してきています。そのコネクタの構造を見てみると、「接点」と呼ばれる、電気や信号を橋渡しするための接続ポイントがあります。B to Bコネクタといった基板間コネクタをはじめ、テレビとレコーダーを繋ぎ合わせているケーブルや、電化製品の電源コンセントについても、接点を介し、2つに分かれていたものを1つに繋ぎ合わせることで、電気や信号を流しています。とても優れた自動車や電化製品、今こうして手にしている高機能なスマホをもってしても、接点にトラブルが出た場合、電気や信号が流れず、うんともすんとも言わない、ただのガラクタへと早変わりします。今回はこの心臓部と言える「接点」において、とても重要な機能の1つである「ワイピング機能/ワイピング作用」について、接点の構造を見たり、身の周りで得た経験などを振り返りながら、効果と原理について、ご紹介していきたいと思います。

「ワイピング機能/ワイピング作用」 とは

導電体同士の接触圧力と摩擦力により、導電体の上に付着した異物や皮膜を「払いのける機能/作用」を表しています。

豆知識:ワイピングの語源

英単語の「Wipe→Wiping」が語源。「拭く、ぬぐう、拭き取る、一掃する」といった意味。身近なものとして、自動車のワイパー(Wiper)がありますが、「雨を払いのける物」として同じ用途で使用されています。

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ワイピングにより何を除去するのか

ワイピングにより、下記大きく2つの絶縁体を除去します。

固形物

ちりやほこり、振動/衝撃によって発生した粉塵が主となります。(振動による摩耗によって発生した筐体の金属やプラスチックの粉など)
チョークの粉や片栗粉といった極小の粒でも、接点に入り込むことで導通不良を引き起こします。目視では見極めが難しく、拡大鏡を用いた観察が、必要となるケースが多いです。

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皮膜

酸化被膜や、汗や薬品の付着による皮膜が主となります。(指で触ることで付いてしまった汗や、基板の実装工程で使用するフラックスなど)
目視では見極めが難しく、SEMを用いた成分分析による物質の特定が、必要となるケースが多いです。

「ワイピング機能/ワイピング作用」 で得られる効果(メリット/プラス面)

接点を常に綺麗な状態で保つことができる

ワイピングにより接点上の異物や皮膜といった絶縁物を払いのけ、ピカピカの導電体(金属)を露出させることで、電気や信号の導通経路を確保することができます。この機能がないと、接点に絶縁物を挟み込み、電気や信号の流れが遮られてしまうことで、結果的に接触抵抗の上昇し、製品が正常に動かなくなってしまいます。また最悪の場合、発煙や発火を引き起こすケースもあり、この「ワイピング機能/ワイピング作用」は、接点にとって、なくてはならない重要な機能の1つとなっております。

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「ワイピング機能/ワイピング作用」 を強くしすぎたことによる失敗例(デメリット/マイナス面)

ワイピング効果を高めようと、ワイピング力、すなわち導電体の接触圧力や摩擦力を高くしすぎることで、下記のような弊害を引き起こします。

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挿抜が固くなる

ワイピング力を必要以上に大きくすることで、大きな摩擦力が生みだされ、導電体の表面を削り込んでしまうイメージとなり、挿抜が異常に固くなります。その結果、生産ラインの作業者への負担や、ユーザーが挿抜を行う場合は、ユーザビリティの低下(固くて差し込みずらく抜きにくい)を招きます。

導電体表面のめっきを削り取る

導電体の腐食を防止するために、導電体の表面には「めっき」が施されているのですが、ワイピングにより、爪で表面を引っ掻いてしまうイメージとなることから、めっきを削り取ってしまう結果となり、導電体の母材が露出することで、絶縁体となる腐食が発生し、接点に挟み込んでしまうことで、電気や信号の流れが遮断され、製品の機能停止を招きます。

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挿抜寿命が短くなる(挿抜回数が少なくなる)

上記2つの弊害から、結果的に導電体の母材自体を削り込み、磨耗させていくこととなるため、必然的に挿抜寿命が短くなります。(挿抜回数が少なくなる。)


以上が、「ワイピング機能/ワイピング作用」 の特徴となります。ざっと特徴だけを把握したかった方は、ここまでとなります。

以降、更に深堀したい方を対象に、「ワイピング機能/ワイピング作用」の原理を、B to Bコネクタ(基板間コネクタ)の接点構造を例に、イラストなどを使いながら解説していきたいと思います。


接点構造から見る「ワイピング機能/ワイピング作用」の原理

コネクタコンタクト:ケーブルコネクタ&端子

スマホの充電ケーブルの先端や、それを差し込むスマホ側の挿し込み口。電化製品に付いている電源ケーブルの先端や、家の壁に付いている電源コンセントをはじめ、電気接続が必要とされているところには、多かれ少なかれ形状に違いはあるものの、必ず接点が存在しており、基本的に構造や設計コンセプトといったものは同じです。今回は、過去に紹介しました、B to Bコネクタ(基板間コネクタ)の接点構造をベースに、深堀していきたいと思います。

2つに分かれた製品や、基板や回路などをはじめ、分離しているものを1つに繋ぎ合わせようとすると、必ず文字どおり、「接点(接する箇所)」 が必要となります。(ETで言うところの指先同士を重ね合わせているところが接点となります。古っ!年齢ばれる・・・)接点はもちろん電気や信号を流す以上は、導電体(金属)である必要があり、この図ではコンタクトAとコンタクトBが導電体の位置づけとなっています。このコンタクトAとコンタクトBの間、すなわち接点の密着性が高いほど、電気抵抗が少なく、より多くの電気や信号を流すことができます。この接点の密着性を高くするためには、常にコンタクト同士が離れることなく、接触し続ける必要があります。それを実現させるために、コンタクトBに山形状を作り「ばね」にすることで、もう一方のコンタクトAを常に押さえ続けることで(常にコンタクトBをコンタクトAに押し当て続けることで)、接点が離れることなく、常に接触し続けた状態を作り上げています。この接点は、基板Aと基板Bとの電気や信号を渡すための架け橋となっており、接点に関する多くのパテントが出願されている背景からも、設計上、最重要箇所となっていることは、言うまでもありません。

コネクタには、リジッドタイプとフローティングタイプといった大きく2つの構造体があります。こちらに詳細構造を記載しておりますので、ぜひ参考にしてください。
【製品設計のいろは】フローティングコネクタと特徴と解決できる課題や注意点

【製品設計のいろは】フローティングコネクタの特徴と解決できる課題や注意点

片方のコンタクトに山形状を作り「ばね」にしたことで、常に接触を保つことができるメリットを説明しましたが、実は、そこには得られるメリットがもう1つあります。それが「ワイピング機能/ワイピング作用」となります! この山形状を持った「ばね」コンタクトですが、常にもう一方のコンタクトに圧力をかけ続けた状態となっているため、その状態を動かすことで、より多くの摩擦を生み出すこととなります。

学校の教室や体育館の床を雑巾掛けするシーンを想像すると分かりやすいと思います。雑巾を両手で床に押し当てながら一休さんのごとく走り抜けることで、床の汚れを拭き取るイメージです。身近な自宅で言えば、クイックルワイパーでフローリングの汚れを拭き取るイメージです。床に押さえ付ける力を強くすればするほど、床に対して雑巾やクロスの摩擦が大きくなり、床の汚れをより綺麗に拭き取ることができます。一方で、更に床の汚れを一段と綺麗に拭き取ろうと、ゴリゴリのマッチョマンを味方に引き連れ、力任せに雑巾を床に押し付け、拭き取ろうとすると、より多くの摩擦が生まれ、フローリング表面のコーティングをも削り取ってしまい、本末転倒の結果となります。これがコンタクトの接点にも同じことが言え、冒頭で説明した、「ワイピング機能/ワイピング作用で得られる効果」と、「ワイピング機能/ワイピング作用に頼りすぎた失敗例」に結び付きます。

以上で、ワイピングの原理について、これまでの実体験をベースに、ご理解いただけたかと思います。「 ”常に接触を保つこと” と ”ワイピング機能” 」。普段気にもしない接点には、一石二鳥となるすばらしい技術が詰まっていたのです!

基板間コネクタのそもそもの役割といった概要などは、こちらを参考にしてください。
【製品設計のいろは】フローティングコネクタと特徴と解決できる課題や注意点

【製品設計のいろは】基板間コネクタの役割

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最後に

話が本題と反れますが、ここまでお付き合いいただいた方は、「ワイピング機能/ワイピング作用」の原理を知ろうと、最後まで読み進めてこられた方となります。あと少しだけ、このままの勢いでお付き合いいただけますか? とは言うものの、様々な研修を企画する機会が多くあるのですが、最近、ふと考えさせられることが1つあります。それは、端的に結論だけ(おししいところだけ)を知ろうとする人が増えてきているように思えます。情報が満ち溢れている状況で、より短時間で成果を求められるといった時代背景が、そのような考えを誘発している一因となっているのではないかと考えています。もちろん、そこには一長一短があり、良い悪いと言った話ではありません。個人的な考え方の1つとして、少し遠回りすることとなりますが、最後に、「原理/原則の大切さ」をご紹介して、終わりたいと思います。

まずは、結論だけを身に付ける人は、場や数を重ねていくことで、短い時間軸で見た場合、短時間で知見が広がり、瞬発力の高い対応力が身に付き、キャリアが少なくとも、より多くの案件をこなせるスーパーマンになれるかと思います。一方、長い時間軸で見た場合、結論を得る努力や情報収集といったことを停止させた途端、そこで打ち止めとなってしまう可能性が高いです。ここまでが結論だけを身に付けようとした場合の特徴です。一方で、結論だけではなく、少し遠回りをして原理/原則を身に付ける人は、短い時間軸で見た場合、なかなか成果に現れず、結果へとすぐに結び付いていきませんが、原理/原則に基づく発想や機転で、臨機応変に渡りゆく対応力が身に付き、長い時間軸で見た場合、自然の法則に基づいた経験そのものが、身となり骨となり、より柔軟なアウトプットを出せるスーパーマンになれるかと思います。このように、両者一長一短といったものが必ずあり、このケースに限らず、様々なシーンにおいて選択に迫られる時が必ずやってきます。そこでぜひ注意してもらいたいことが1つだけあります。それは、もし選択に迫られた場合、「自分は○○だと思うからこそ、この道を選びました」といったように、理由を明確にした上で、この先の進むべく道を選択するようにしてください。その選択は、誤っていても問題なく、なんら気にする必要はありません。理由をこじつけてでも、自分が納得した上で、次の道を選択するようにしてください。

なぜそのようなことを言うのでしょうか? その理由はとても簡単です! それは自分の意思があってこそ、誤りがあった場合、軌道修正をすることができるからです。数学で言うところの、計算式があるからこそ、答えが間違っていても、考え方を軌道修正することで、次に繋げることができ、仮に問題が変わろうとも、答えを導くことができます。これが自分の意思なしに、周りの人の意見や空気に流され、答えだけを出していたとすれば、どうでしょうか? 先ほどの数学の話で考えると、計算式のない答えだけの状態であることから、仮に答え合わせで答えが分かったとしても、答えに至るまでの考え方といった過程がなく、何が悪かったのかさえも分からず、軌道修正することができません。時には、片方の選択だけではなく、両方を選択したほうが良いといったケースも出てくる場合があります。一辺倒な対応ではなく、その時々に応じて臨機応変に、自分が納得できる理由付けをした上で、次の道に進むようにすれば、必ずその向こうには未来が開けてくるはずです。ここまでお付き合いいただいたあなたなら、必ずできるはずです。何事も上を見れば切りがなく、その先は無限に広がっています。その場所へたどり着くためにも、まずは足下の1歩1歩を確実に自分のものするようにしてください。私もそのように歩んで行きます。これからも。。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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