【製品設計のいろは】相見積もり比較:金型償却費を考慮した計算方法│部品単価だけではなく設備投資費/イニシャル費の考慮を忘れずに!

【製品設計のいろは】相見積もり比較:金型償却費を考慮した計算方法│設備投資費/イニシャル費の考慮を忘れずに! 製品設計のいろは

ある図面を作成し数社に相見積もり。見積書が出揃い上司に報告したところ、「金型償却も考慮して、どのメーカーでGOするのかを検討書にまとめておいて!」と言われ、いざデスクに戻り、「金型償却って何?」と、あたふたしながらGoogleで調べたり、1人で悩み込んでしまい、涙をこらえ故郷の母親を思い出したりしたことはないでしょうか? そんな言葉、日常生活ではもちろん使いませんし、学校でも親切丁寧に教えてくれた記憶もありません。エンジニアなら誰もが必ず歩む道。部品単価だけではなく、金型を始めとする設備投資費を考慮した見積もり結果の比較。今回は具体的に計算方法を交えながら、設備投資費/イニシャル費を考慮した見積もりの比較方法について、ご紹介していきたいと思います。

若手エンジニア
今どき、見積ごときで、そんなに悩まんでしょ!

ベテランエンジニア
・・・・・

はじめに

自分で作成した図面で初の見積もり。なんだかとても 「ワクワク!」 したあの感覚。私はもう歳も歳ですが、いまだにあの感覚をはっきりと覚えています。メーカー選定を行う際、コストの妥当性を判断するために、数社に相見積もりをかけ、最終的に1社に絞る行程を誰もが踏んでいるかと思います。いざ手にした見積書を確認したところ、自分が一番知りたかった「部品単価」以外に、金型費や冶具費といった設備費までもが記載されており、どのメーカーがコスト的に優位となっているのか、ぱっと見ではさっぱり分かりません。エンジニアは、CADで図面を書くだけではなく、コストの観点から、実設計担当として「イチ押し!」 と言えるメーカーさんを選ぶ力も必要となります。今回はメカ部品では 「よくあるある!」の、「成形品(樹脂/プラスチック部品)」と「板金部品(金属部品)」に関する見積書をベースに、実際にコスト比較を行うための計算方法を、順を追いながら説明していきたいと思います。それでは今日も始めましょう!

金型費も考慮したコスト比較を行うための計算方法

成形品(樹脂/プラスチック部品)の場合

見積書

メーカー候補A社B社
部品単価80円100円
金型費2,200,000円1,200,000円
生産数量/3年40,000個同左
ベテランエンジニア
さぁ、どちらのメーカーさんに決めましょうか?

若手エンジニア
もちろんA社でしょう! 部品単価が、B社の2割引きっすよ、2割引き!
いやぁ〜「Amazonプライム」並みですよ!

ベテランエンジニア
いや。初期投資として金型費も発生しているので、一度落ち着いて計算してみましょうか。

若手エンジニア
はい出ました! 石橋を叩いて渡る作戦。あまり叩きすぎると渡れるものも渡れなくなりますよ!
(前もどこかで言ったような気が。。)

考え方

それでは具体的な計算に入る前に、まずは考え方について理解していきましょう。

ベテランエンジニア
部品単価は両社そのまま比較すれば良いのですが、初期投資となる金型費も考慮していく必要があります。

若手エンジニア
金型費を考慮かぁ。とりえず、部品単価に金型費をそのまま足し込んどきますか!(冗談のつもりだけど。)

ベテランエンジニア
3年の生産数量が40,000個と見込まれているので、一旦、3年で金型費を支払い切ることを前提に計算していきましょう。ちなみに、この支払い切ることを、「償却」 と言います。一般的に「金型償却は3年で見ておいてくれる?」や、「イニシャル費3年ペイ(pay)で計算しておいてくれる?」といった表現をされる方が多いです。

若手エンジニア
(てっきり「金型焼却」だと思っていた。。「焼却」って、「償却」って漢字なんだぁ。危うく隙を見せてしまうとこだった。やばい、少し黙り込んでしまったので、そろそろ切り返さなきゃ!)
金型償却は3年で切っちゃっていいんですか?

ベテランエンジニア
言い質問ですね!金型費を何年で償却するか(払うか/計算するか)については、各企業によって考え方が異なる場合があります。見積もり比較を行う前に、上司や購買担当の方へ、必ず確認するようにしてください。

若手エンジニア
なるほどぉ! とてもよく理解できました。償却期間によって計算結果(結論)が変わってくるので、とても大切なことですよね!

ベテランエンジニア
(ムム・・・。相変わらずの飲み込みの早さ。。先日の腰痛といい、やはり世代交代の時期が迫って。。)

まぁ、一連のお二方のやりとりはこのくらいにしておき、それではA社とB社の金型償却費を考慮した部品単価の計算を行い、どちらのメーカーがコスト的に優位なのかを検証していきましょう!

計算方法

■A社

3年で40,000個の部品を生産するから、金型費2,200,000円を40,000個で割れば、部品1個当たりの金型費となります。部品1個当たりの金型費が出れば、あとは部品単価80円に足し込むことで、金型償却費を考慮した部品単価となります。

  • 部品単価:80円
  • 部品1個当たりの金型費(3年償却で計算):2,200,000円/40,000個=55円
  • 金型償却費を考慮した部品単価:部品単価+部品1個当たりの金型費=80円+55円=135円

■B社
A社と同様に計算していくと、下記となります。

  • 部品単価:100円
  • 部品1個当たりの金型費(3年償却で計算):1,200,000円/40,000個=30円
  • 金型償却費を考慮した部品単価:部品単価+部品1個当たりの金型費=100円+30円=130円

結論

金型償却費を考慮した部品単価を比較した結果、コスト安となる「B社」を採用する。(A社:135円 > B社:130円)
ベテランエンジニア
検討書の作成、ありがとうございました。初めての見積もり比較だったので少し疲れたでしょう? どちらもほぼ同等の5円の差ではありますが、されど5円。開発としては、結論付けいただいた「B社」で購買へ提案しましょう! 大変おつかれさまでした。

若手エンジニア
(やばっ。初めに言った結論と逆の結果になってしまった。取り消さなきゃ。。いやぁ〜 「Amazon Prime」 並みですよ!)しばらくCADばかりの業務でしたが、今回はエンジニアとして、新たな1面を勉強することができました。ありがとうございました。少しずつ確実に、自分のものにしていきたいと思います。

ベテランエンジニア
(ムム・・・。相変わらずの飲み込みの早さ。。やはり世代交代の波が。。)

若手エンジニア
(それにしても、いつも考えていたことと逆の結論となってしまうよなぁ。。あやつ! もしかして、あえて引っかけ問題にしているのか? 今度は最初に思ったことと、反対のことを言ってみっか!)

板金部品(金属部品)の場合

見積書

加工案板金(汎用型)プレス(専用型)
部品単価300円10円
金型費100,000円300,000円
生産数量/3年400個同左
若手エンジニア
一見、プレス(専用型)案の方が、超激安のような気がするけどなぁ。。。
さては、あやつの罠では?

補足:板金(汎用型)とプレス(専用型)の一般的な特徴

  • 板金(汎用型)
    メーカー保有の汎用型を用いて部品を製作。加工工程が多く加工時間も長くなるため、部品の単価が高くなる傾向にある。また職人の技術にも依存することから、個々の部品の仕上がりバラツキが大きくなる傾向にある。
  • プレス(専用型)
    部品に対して専用に型を製作。その専用型を使い部品を加工。一般的に板金と比べ加工工程が減り加工時間が減るため、部品の単価が安くなる。また、専用型による製作のため、職人の技術にあまり依存することがなく、個々の部品の仕上がりバラツキが小さい。(安定した量産が可能)

計算方法

今回も金型償却期間3年を前提として、「成形品(樹脂/プラスチック部品)の場合」 と同様に計算していきましょう。

■板金(汎用型)案

  • 部品単価:300円
  • 部品1個当たりの金型費:100,000円/400個=250円
  • 金型償却費を考慮した部品単価:部品単価+部品1個当たりの金型費=300円+250円=550円

■プレス(専用型)案

  • 部品単価:10円
  • 部品1個当たりの金型費:300,000円/400個=750円
  • 金型償却費を考慮した部品単価:部品単価+部品1個当たりの金型費=10円+750円=760円

結論

金型償却費を考慮した部品単価を比較した結果、コスト安となる「板金(汎用型)案」を採用する。(板金:550円 < プレス:760円)
若手エンジニア
やはり罠を張ってやがったなぁ。。 今に見とれよ!

最後に

いかがでしたでしょうか。今回は私がエンジニアの駆け出しだった頃を、ふと思い出す機会がありましたので紹介してみました。今回は単純にコスト比較によるメーカー選定を行いましたが、1つだけぜひ覚えておいていただきたいことがあります。それは、「現実的には、コストが全てでない!」ということです。

製品開発において、ものごとを判断していく指標の1つに、「QCD」といった考えがあります。今回は、「C(コスト)」に特化した判定を行いましたが、現実的には、「Q(品質)」や「D(納期)」も考慮した上で、判断を行います。いくら「C(コスト)」が安くても、「Q(品質)」が悪かった場合、怪我や事故を招いてしまうこととなり、本末転倒の結果となることは、言うまでもありません。また「D(納期)」が長かった場合は、どうでしょうか? いくら「C(コスト)」が安かったとしても、開発期間内に製品を量産できる体制までもって行くことができなければ、機会損失を招く結果となります。

例えば毎年秋に、各社でスマホの発売が相次ぎますが、Apple社の新型iPhoneが予定どおり発売されるのに対し、Google社のPixelが予定どおり発売することができなかったとすれば、どうでしょうか? 発売ができなかったPixelは、より新型で機能UPされたiPhoneにシェアを奪われていくはずです。

少し極端な一例でしたが、ものごとは一辺倒ではなく、様々な状況下において、臨機応変に柔軟に対応していく必要があります。そんな判断が「果たして自分にはできるだろうか?」と考えてはいませんか? それも特に駆け出しのエンジニアであればあるほど、そのように思えるかもしれません。

でも心配は不要です。周りには様々な知見や経験をもった仲間がいます。特にベテランエンジニアを見ると、強面の強者だらけで尻込みするかと思いますが、ぜひ若いうちから、様々な人を巻き込んで目の前の仕事に取り組むことをおすすめします。そうすることで次第に周りが自分を認めだし、その仲間達と協力していくことで、さらにより高度な発想をもって、より質の高い+αまで兼ね備えたアウトプットをより早く出せるようになります。

若いうちは遠慮なく人に教わったり、失敗が許される特権を持っています。ぜひこの特権を大いに生かし、1つ1つを確実に積み重ね、自分のものにしてください。やがては世界の人々をより豊にする製品を次々と生み出していく日が必ず訪れます。きっかけはどうであれ、このブログ読んでくれているエンジニア達に、そんな日が訪れるのを、私は今から心待ちにしています。

初期投資を行う上で、投資対効果といったことも考えておく必要があります。Kindleといった電子書籍専用端末を例に、こちらに検証/計算方法について記載しておりますので、ぜひ参考にしてください。
投資対効果の検証/計算方法(電子書籍専用端末Kindleやkoboを例に)

【製品設計のいろは】投資対効果の検証/計算方法(電子書籍専用端末Kindleやkoboを例に)

2019年9月25日