ドラマや映画などで設計図面を目にしたことがあるでしょうか? 図形から寸法が引き出されていて、その中に書かれている「○○±XX」といった数字。この謎の数字はいったい何を表しているのでしょうか。今回はこの特に後ろの方の「±XX」の意味するところについて、説明していきたいと思います。これからメカエンジニアを目指す人。職場などで図面を見たことがあり、少し興味の持たれた方や専門外でもメジャーで大活躍中の大谷選手のようなマルチプレイヤーを目指されている方など、設計のノウハウも含め、ぜひ参考にしていただければ、とてもうれしいです!
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はじめに
Index
例えば普段使っている木製の机。ある日突然、脚が折れてしまったとします。このままでは使い物にならないため、長さ1mジャストの脚が必要となりました。ホームセンターで他の脚とよく似たテイストの角材を買い、自宅に戻りました。ものさしやメジャーなどで、1mの目盛りに合わせ、鉛筆やマジックで角材にマーキング。その後マーキングに沿う形で、のこぎりでカットし、ようやく完成で「めでたし、めでたし」となります。通常はここで話が終りとなりますが、今回はこのカットした1mについて、少し掘り下げていき、冒頭で触れた「○○±XX」といった表記が意味することと、なぜそのような表記が必要なのかを説明していきたいと思います。
まず始めに「ばらつき」についての理解から
ものづくりをする上で、ぴったりの狙い通りとなるサイズにものを仕上げる。これって普段、あまり考えるような機会がないかと思いますが、どのように思いますか? 「そんなの、ぴったりのサイズに仕上がってるに決まってんだろ! それが ”Made in JAPAN” の力でしょう!」って思われている方が多いのではないでしょうか。答えは「No」です。それではなぜ、ぴったりのサイズに仕上げることができないのでしょうか? その答えは簡単です。それはつまり、現実的にぴったりに加工できないからです。「えっ? それだけ?」と思われる方が多いかと思います。それでは1mにカットした角材を例に、少し具体的に詳細を見ていきましょう。
登場人物
角材をカットするまでの各登場人物ごとにばらつく要因を見ていきましょう。
1. 角材
- 周辺湿度に応じて、木材が膨張/収縮します。結果的に長さや太さがその時々で異なります
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2. メジャーの目盛り
- 目盛りが目に見えるということは、目盛り(線)自体に太さがあります
3. 鉛筆やマジック
- こちらも同様に、鉛筆やマジックのペン先自体に太さがあります
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4. マーキング
- 目測かつ手で線を引いていることから、結果的にマーキングする位置にブレが生じます
5. のこぎり
- 周辺温度に応じて、刃が膨張/収縮します。結果的に刃の厚さがその時々で異なります
- 刃自体に厚みがあります
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6. 線に合わてカット
- 手によるカットなので、カット位置にブレが生じます
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まとめ
ざっと1〜6と列挙しただけでも、ばらつく要因が多々あります。いかに1mのジャストサイズにカットすることが難しいのかを実感することができたかと思います。そうなんです! この世の中、一見ジャストサイズの1mにカットされてると思っていたものが、実際は1m2cmでカットされていたりします。それでは私たちはどのようにして長さを決め、ものづくりをしていけばよいのでしょうか? その答えも簡単です。それでは次の項目で、その方法について具体的に検証していきましょう。
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許される長さ(=許容範囲)を決めよう!
それでは具体的にカット寸法を決めていきましょう。ここからは実設計です。あなたもエンジニアの仲間入りです! 今回脚が折れてしまったところが、どのような長さになったら困るのか、どのような長さになったら困らないのかを決めていく必要があります。他の折れていない脚の長さを測ると概ね1mジャスト。これが本当に欲しい長さとなりますが、ばらつきを考慮した実使用に応じた許容範囲を決めておく必要があります。
まとめ
ということで、1mジャストのカットが理想ですが、98cm〜1m2cmの範囲内であれば実使用上問題なく、許容できるということが検証できました。
図面に寸法を表記する方法
先ほどの項目で角材のカット長さは、1mジャストを狙い目とし、98cm〜1m2cmが許容範囲であるということを導き出しました。それではこの思想を実際にカットしてもらう人(=第三者)に確実に伝えていく必要があります。そこで図面の登場です! 加工寸法を正確に伝える手段として製図法による寸法の表記方法が定められています。具体的には下図のようになります。「狙い目寸法=基準寸法」と「許容範囲=公差」をセットにした形で寸法表記を行います。
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その他の表記方法
1m狙いだけど長くなる方向に、カットしてもらいたい場合(1mを切ってほしくないという設計者の思い入れがある場合)
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1m狙いだけど短くなる方向に、カットしてもらいたい場合(1mを超えてほしくないという設計者の思い入れがある場合)
これらの表記方法は日本ではJIS規格、世界規模でみるとISO規格の製図法で定められており、世界中のみんなが同じルールで図面を作成しています。設計者の思想を確実に加工者をはじめとする第三者に伝達することを目的に定められています。
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最後に
いかがでしたでしょうか。普段は寸法だけで、公差自体を目にする機会が少ないかと思います。実際の設計図面には、設計者がばらつきの考慮や許容範囲に関する設計検証を行い、最適な寸法を決定し、図面に表記しています。よって、寸法ひとつひとつには意味合いがあり、公差(許容範囲)を大きくするような相談があった場合、公差を少しぐらい変更しても大丈夫だろうといった、安易な発想は危険です。公差ひとつを変更するにも机の脚の長さの検証ではありませんが、変更しても大丈夫という裏付けをとり、他にも問題を引き起こすような要因がないかを十分に検証し慎重に進めていく必要があります。エンジニアはそういった ”こだわり” を ”プライド” として持ち合わせ、頭の中だけに思い描いているスケッチを現実の世界へ実際の形として落とし込んでいくといった、とても素敵な職業だと思います。根っからの物好きでエンジニアとなった方、理系と言えば、弁護士、医者、エンジニアといった高い収入が得られる職業だということでエンジニアとなった方。きっけは様々あるかと思いますが、世の中の人々に大きく貢献していることは間違いありません。自分自身のプライド。少なからず誰もが持ち合わせていると思います。今日より明日。明日より明後日。日々進化していくことで、まだ見たこともない新たな未来が、これからもきっと見えてくるんでしょうね!
設計とは
読んで字のごとく、「各形状に対し計測値を設ける」から一字ずつを抜き取り、「設計」という言葉ができたのだと思っています。この世にない思想を具体的な形へと導く。職業という一言では片付けることのできない、エンジニアが持つ無限大の可能性。とても魅力のある世界だと、少なくとも私自身、誇りに思っています。
by よくよく